令和8年度 クリエイター支援基金 進捗報告会実施レポート

2026年6月5日、「クリエイター等育成・文化施設高付加価値化支援事業」4つの採択団体による成果発表を実施しました。各団体からは代表者と育成対象者が登壇。代表者が企画概要や昨年度までの具体的な活動内容を紹介し、育成・海外派遣のプログラムを受けた育成対象者がその様子を報告しました。
※6月6日の分科会のレポートはこちら
会期・会場
開催日程:令和8年6月5日(金)14:00~17:30
開催場所:文部科学省講堂
※YouTubeによるライブ配信を実施
プログラム・発表資料
※敬称略
| 挨拶 | 文部科学副大臣 小林茂樹 | |||
| 基金概要説明 | 独立行政法人日本芸術文化振興会 理事長代理 杉浦久弘 | |||
| 採択団体発表① | 団体名/分野:緊急事態舞台芸術ネットワーク/舞台芸術(演劇) プロジェクト名:SOIL Fellowship Program 登壇者:伊藤達哉((有)ゴーチ・ブラザーズ 代表取締役 緊急事態舞台芸術ネットワーク 常任理事・事務局長) 野村善文(株式会社PortPort代表取締役/SOIL 事務局長/育成者) 坂田厚子(イキウメ制作部/SOIL 第1期育成者) | |||
| 採択団体発表② | 団体名/分野:東京芸術劇場/劇場・音楽堂 プロジェクト名:TMTギア―東京芸術劇場クリエイター支援プロジェクト 登壇者:矢作勝義(東京芸術劇場 事業企画課長/TMTギア―東京芸術劇場クリエイター支援プロジェクト メンター) 黒田 忍(東京芸術劇場 事業企画課 事業第二係 主事/TMTギア―東京芸術劇場クリエイター支援プロジェクト インハウススタッフ パフォーミングアーツ分野 プロデューサー/育成対象者(プロデューサー)) | |||
| 採択団体発表③ | 団体名/分野:キネマシトラス/メディア芸術(アニメ) プロジェクト名:グローバル・アニメ・チャレンジ 登壇者:安井洋輔(GAC リサーチャー/ファシリテーター) 中目貴史(育成対象者(プロデューサー)) 斎藤圭一郎(育成対象者(ディレクター)) | |||
| 採択団体発表④ | 団体名/分野:滋慶学園(東京コミュニケーションアート専門学校)/デザイン等(分野横断) プロジェクト名:イマーシブ映像コンテンツクリエイター育成・輩出プロジェクト 「Immersive Media Lab++」 登壇者:佐藤志織(滋慶学園COMグループ 副校長) Discont(株式会社STYLY Immersive Media Lab++ディレクター) 畠中 実(Immersive Media Lab++有識者 キュレーション・批評) 廣谷ひより(大阪アニメ・声優&eスポーツ専門学校 3年 VTuberテクノロジー) 髙澤優斗(大阪アニメ・声優&eスポーツ専門学校 3年 スーパーゲームクリエイター) | |||
| 質疑応答 | ||||
| クロージング | ||||
採択団体発表①
緊急事態舞台芸術ネットワーク「SOIL Fellowship Program」
舞台芸術のプロデューサー育成事業「SOIL Fellowship Program」は、2025年度、育成対象者を9名選出し育成・海外派遣を実施。発表には緊急事態舞台芸術ネットワーク事務局長・伊藤達哉氏とSOIL事業事務局長の野村善文氏、育成対象者の劇団イキウメで制作を担う坂田厚子氏が登壇しました。
育成期間中、採択者は3回のメンターによる個別セッションや、英語スキル向上のための講座やオンラインレッスンを通して、自作の魅力を深掘りし、それを3分間の英語によるピッチで伝える方法を習得。海外派遣においては、本人に加え所属団体のクリエイターや上長1名まで帯同可能とし、また通訳サポートを充実させることで、組織全体での共通理解やモチベーションの向上を図りました。宿泊先に共同キッチンなどがある現地の大学の寮を活用したことで、育成者間の交流が生まれ連帯が強まったと言います。
2025年度の主な派遣先は世界最大級の舞台芸術見本市であるスコットランドの「エジンバラ・フェスティバル・フリンジ」です。業界関係者約1,400名が集まる中、日本の多様な舞台芸術を紹介するショーケース「Japan Selection by SOIL」を実施しました。イベントは好評を博し、その後ロンドンでも開催。さらに複数の案件が交渉段階に進んでいるとのこと。
育成・海外派遣プログラムを経て坂田氏は、「受け身だった姿勢が能動的に変わった。充実した育成プログラムを通じて、国内では意識しなかった『自作の魅力を言語化する力』が鍛えられ、大きな学びになった。帯同した演出の前川と共に海外の潮流を知れたことは有意義だった」とプログラムを振り返りました。
「海外で場を作ると人が集まる。それは、日本の舞台芸術がこれまでに培ってきた信頼があってこそだと感じた。これまでの土壌を生かしつつ、今後につなげていきたい」と野村氏。戦略的に作品を売り込むための長期的な計画を組み立て、継続していくと述べました。




映像リンク:
SOIL Video_字幕付き https://youtu.be/_R-vg7VjOhY
PortPort Inc – SOIL EVENT https://youtu.be/ezdB8RXbmYk
採択団体発表②
東京芸術劇場「TMTギア―東京芸術劇場クリエイター支援プロジェクト」
東京芸術劇場による「TMTギア―東京芸術劇場クリエイター支援プロジェクト」は、東京芸術劇場の事業企画課長・矢作勝義氏と、育成対象者でもある同劇場インハウスプロデューサー・黒田忍氏が登壇。クリエイターや劇場スタッフの育成はもとより、映像メディアを活用した発信やアーカイブの構築を目標の一つとして掲げていることがプロジェクトの特徴として挙げられます。
2026年度より劇場の芸術監督を務める演劇作家・演出家・小説家の岡田利規氏と、指揮者の山田和樹氏の2名をメンターに迎え、育成対象者にはパフォーミングアーツ、音楽、映像メディア各分野のクリエイターにインハウススタッフを加え計15名を育成対象者として選出しました。
クリエイター各者はリサーチや制作、オーディションなどを行いながら自作創作を進め、インハウススタッフはクリエイターの活動への伴走のほか、ルーマニア・ラドゥ・スタンカ国立劇場との国際共同製作『ヨナ-Jonah』の制作及び欧州ツアーに帯同しオン・ジョブ・トレーニングを実施。海外の文化拠点や国際イベントなどの調査・視察を行いながら、国際的なネットワーク構築を図っています。「私たちインハウススタッフが『ギア(装備、変速装置)』として成長することで、クリエイターが世界へ羽ばたきやすい環境を作っていきたい」と黒田氏。
映像メディア分野においては、ほかの育成対象者らの紹介映像や活動記録映像を制作。本発表で上映された映像もすべて、映像メディア分野のクリエイターによるものと言います。前出の『ヨナ-Jonah』ではシビウ公演における制作の様子を収録。育成対象者の一人はその成果をドキュメンタリー映画祭に出品予定です。EPADのデジタルアーカイブ講座を受講するなど、記録のあり方についても研究を深め、制度設計を進める予定です。



映像リンク:
額田大志 https://youtu.be/Sh7-pcOKdeQ?si=guL5BuC0EbyU1sqk
山崎阿弥 https://youtu.be/OnIrFWO1nEw?si=-qgz9KiE1wU4RxkJ
長瀬善則 https://youtu.be/M-5lcSYbwAc?si=y0vP3Wsa-ophxOUY
布施砂丘彦 https://youtu.be/CaSiB2znN9g?si=ka4TS5ZuXVkIQUtx
吉野良祐 https://youtu.be/r95kakeCcqk?si=BUjRjgu9UrFuLscH
芸劇紹介映像 https://youtu.be/Eug3WmfecvY?si=el5bDw_GVsrNdpsE
TMTギア紹介映像 https://youtu.be/WRhTh7cVarg?si=7GYeUPehKTgELOhQ
採択団体発表③
キネマシトラス「グローバル・アニメ・チャレンジ」
商業アニメ分野の監督、アニメーター、プロデューサーを対象とした育成プログラム「グローバル・アニメ・チャレンジ」(GAC)は、11名の育成対象者を選出しプロジェクトを進行中です。リサーチャー/ファシリテーターの安井洋輔氏、『君の名は。』『未来のミライ』の制作に関わったプロデューサーの中目貴史氏、『ぼっち・ざ・ろっく!』『葬送のフリーレン』の監督・斎藤圭一郎氏が育成対象者として登壇しました。
プログラムでは、海外スタジオでのインターンシップ、パイロットフィルムの企画開発、国際映画祭への出展を経験します。インターンシップを取り入れた背景には、海外展開に向けて、日本のアニメ産業の働き方を見直すことを重視したことなどが挙げられます。育成対象者は昨年度、フランスとアイルランドのアニメスタジオで3ヶ月弱のインターンシップを経験。今年度、国際映画祭でのピッチなどに挑戦します。
中目氏は「国内でも同業者同士のピッチや議論の場はなかなかなく、このプログラムは非常に貴重な機会」とし、インターンシップを振り返り「働き方の違いを大きく感じた。またフランスのアニメ学校は国際色豊かで画力も高く、個人で日本の仕事を請け負う学生もいるが、共同制作となるとその仕組みがない。国が共同制作をしやすい協定などを結んでくれるといい」と報告。斎藤氏は「フランスは基本的に複数の会社による共同出資で作品を作るため、ピッチでプレゼンをする文化とノウハウがある。今回それをレクチャーしてもらえたのがよかった。また、作品のアートワークはテクニカルな面と密接に関わっていると思う。海外では技術開発が進んでいるが、日本ではそこに手をかけられず遅れをとっている印象。各社が気軽に開発に取り組めるようになるといいと感じた」と振り返りました。
また、本プログラムではその効果の検証を重視し、行動変容モデルに基づいたアンケート調査を実施しています。「プログラムの効果を正確に測るには、参加者のイベント前後における意識の変化を見るのではなく、参加者と非参加者の間における、意識の変化の差をみる必要がある」と安井氏。比較したグラフを見せ、プログラムの効果を紹介しました。



映像リンク:
【キネマシトラス】GAC_WIP https://youtu.be/e2YdMcoB3pA
採択団体発表④
滋慶学園(東京コミュニケーションアート専門学校)「イマーシブ映像コンテンツクリエイター育成・輩出プロジェクト『Immersive Media Lab++』」
滋慶学園と株式会社STYLYが共同するのは、イマーシブ映像コンテンツクリエイター育成・輩出プロジェクト「Immersive Media Lab++」です。滋慶学園 COMグループ・佐藤志織氏、プロジェクトディレクターの株式会社STYLY・Discont氏、育成対象者の廣谷ひより氏、髙澤優斗氏、プロジェクトに有識者として参画している畠中実氏が登壇しました。
他団体のプロジェクトがプロフェッショナルを育成対象としている中、本プロジェクトは学生を対象としていることが特徴として挙げられます。2025年度は、翌年度からのカリキュラム試行実施に向け、国内外のイマーシブ市場のリサーチや有識者へのヒアリングを通して、企画から設計、ディレクションまで担える人材を育成できるカリキュラムについて議論を重ね、その検証としてハッカソンと成果展示を行いました。
また海外視察・海外展開に向けたネットワーク構築として、コンテンツ開発企業や学校への訪問など、XRを取り巻く環境に学生が触れる機会を創出。直近ではロンドンに渡航し、レイベンズボーン大学で展覧会を開催し、150名ほどの来場者が体験しました。2027年度にまでにMITリアリティハックに参加することを目標に掲げています。
育成対象者として登壇したのは、ハッカソン最優秀チームのメンバーである大阪アニメ・声優&eスポーツ専門学校の廣谷氏、髙澤氏。最優秀賞を受賞し、アメリカに渡航しMITなどを視察してきました。ハッカソンや海外視察を通した異分野協働、英語での主体的コミュニケーション、展示に向けてのブラッシュアップについて振り返り、自らの成長を会場に共有しました。
有識者である畠中氏は、自身の役割が意図・文脈の設計などコンセプトメイキングの支援にあると前置きし、「技術習得において学生は恵まれた環境にある。海外渡航などの経験を通して、今何が求められているのかを考えることが重要」とし、技術習得に終始しない取り組みに期待を寄せました。
2026年度は5月から滋慶学園の学生40名を対象に通年カリキュラムを実施しています。前期はコンセプトメイキング、プロトタイピングを行い、後期は制作・展示で実践力を養成するほか、長期休暇を利用した海外での集中講義や視察なども予定しています。





映像リンク:
01_ハッカソン https://youtu.be/wR4f9me_oAI
02_3月展示 https://youtu.be/Q0ZsCosboHo
03_OAS_ハッカソン https://youtu.be/3Q6mEh2Brew
04_OAS_MIT https://youtu.be/tRYui87mUQo
05_OAS_2月展示 https://youtu.be/ix5fuBfejSA
質疑応答
発表後は事業の審査委員を務めた内山隆氏をファシリテーターに、採択団体への質疑応答が行われ、オンラインで寄せられた質問に各担当者が答えました。
派遣先での滞在についての質問にSOILの野村氏は「フリンジフェスティバルなどコンテンツが多いイベントでは、予定を詰め込まず空き時間をつくることで『ちょっとお茶でも飲みながら話そうよ』とコミュニケーションが深まる可能性がある」として、スケジュールを緩めに設定することで生まれる余白の重要性を示唆しました。また事業が進行する中で見えてきた想定外について、SOILの伊藤氏は「2年目、3年目と進み、育成対象者それぞれが独自の動きをしていく段階になった時に、共有や公開が難しい情報が生じてくる。初年度の段階で設計しておくべき部分」と今まさにぶつかっている課題を吐露しました。
TMTギアへは、創作物を劇場の財産としていくことについて問いかけがありました。「このプログラムで生み出された作品はあくまでアーティスト自身のものであり、劇場のものではない」と矢作氏。生み出す過程に劇場のスタッフが関わり、スタッフにノウハウが蓄積されることが重要であり、それが劇場の財産になるといいます。
「Immersive Media Lab++」における学生の熱量について問われた佐藤氏は、「学生にとっても新しい分野のため、本プロジェクトのスタート前からSTYLYと滋慶学園COMグループでおこなってきた産学連携プログラムをベースに、昨年度のハッカソン実施へとつなげ、そこで興味を持った学生を選出している」と話しました。伴って、イマーシブに興味を持つ学生は増えているといいます。
各分野で重視されているピッチのノウハウについても質問がありました。SOILの野村氏は「3分という時間設定が重要。日本でプレゼンというと短くても10分程度あり前提から説明してしまいがちだが、できるだけ端的に独自性や新規性をアピールできるようにした」と話した上で、「ただ、ピッチだけで決まるというものではない。あくまできっかけとしてのピッチで、次に繋げていくためのもの」と補足しました。GAC安井氏は「今まさにアヌシーに向けて、スペインの著名なプロデューサー、マヌエル・クリストバル氏の指導のもとピッチ練習を重ねているところ。目から鱗だったのは、『作品をアピールするのではなく、自分自身をプレゼンテーションする場』という言葉。どこから来てどこを目指しているのか、自分たちのナラティブを示した上でコンテンツを説明することが大事」と、印象的なアドバイスを紹介しました。


令和6年度にスタートし、3年計画の3年目に入った各プログラム。登壇した採択団体を含め、累計育成クリエイターは544名、本プログラムを通して実施された公演・展示は国内で163回、海外で165回にのぼります。日本のクリエイターが国際的なプレゼン力を身につけることは、海外に潜在的にある日本の芸術文化への興味関心を手繰り寄せることにつながる。各者の様子と報告からは、そんな手応えが感じられました。
