【開催レポート】クリエイター支援基金 特別シンポジウム「Presence & Resonance: 劇場が世界とつながる未来」@YPAM 前編(プレゼンテーション)
「クリエイター支援基金」の支援メニューの一つである<文化施設による高付加価値化機能強化支援事業>(以下、文化施設支援)は、日本のクリエイターが海外にも活動の場を広げられるよう、文化施設を拠点とした国内外での公演や創作・発信等の活動を複数年度にわたる支援を行うことで施設の機能を強化し、文化芸術の発展に寄与することを目指しています。

横浜国際舞台芸術ミーティング(YPAM)は、毎年、日本で行われる随一の舞台芸術団体・関係者の国際ミーティングで、今年30周年を迎えました。国内外の関係者が集い、横浜市を舞台にパフォーマンス・シンポジウム・プレゼンテーション等が実施され、交流の場が醸成されてきました。
「YPAM2025」ミーティングポイントの枠組みで実施したシンポジウムでは「劇場が世界とつながる未来」をテーマに、劇場等の採択館3館の事業中核者や海外の劇場ディレクターによるプレゼンテーションと、特別ゲストを交えたディスカッションを行いました。今回は約100名の方が集ったシンポジウムの模様を、前編(プレゼンテーション)/後編(ディスカッション等)に分けてお伝えします。
シンポジウム基本情報
クリエイター支援基金 特別シンポジウム
「Presence & Resonance: 劇場が世界とつながる未来」
日時:令和7年12月10日(水) 10:00-12:00
会場:男女共同参画センター横浜南(フォーラム南太田) 大研修室
登壇:
[パネリスト]
滝口 健(世田谷パブリックシアター 劇場部長)
竹下暁子(山口情報芸術センター[YCAM] パフォーミング・アーツプロデューサー)
矢作勝義(東京芸術劇場 事業企画課長)
[ゲストスピーカー]
丸岡ひろみ(特定非営利活動法人国際舞台芸術交流センター 理事長/横浜国際舞台芸術ミーティング ディレクター)
フェイス・タン(エスプラネード・シアターズ・オン・ザ・ベイ プログラミング・ディレクター(ダンス・演劇・ビジュアルアート・国際開発担当))
[モデレーター]
横堀応彦(跡見学園女子大学 マネジメント学部 准教授/ドラマトゥルク/クリエイター支援基金アドバイザー)
★シンポジウム終了後、12:00~13:00でランチ・パーティーを開催
[主催] 独立行政法人日本芸術文化振興会
[協力] 横浜国際舞台芸術ミーティング実行委員会
シンポジウム開催にあたり「クリエイター支援基金」や文化施設支援の概要説明を行った後、前半は、採択団体の中から3館の事業中核者と、シンガポール エスプラネード・シアターズ・オン・ザ・ベイ(以下、エスプラネード)のフェイス・タン氏による、事例発表を行いました。採択団体からは、3館の事例をご紹介いただき、フェイス・タン氏からはエスプラネードの人材育成や国際展開におけるプログラムについて発表いただきました。
◆世田谷パブリックシアター 事例紹介
滝口 健(世田谷パブリックシアター 劇場部長)

・開場当初から「赤鬼」「エレファント・バニッシュ」等をはじめ、海外との共同作業を積極的に行っている。共同作業によって作品を作る試みは近年も続いており、世田谷パブリックシアターのDNAには<共同作業>が刻まれている。
・個人的な経験の話だが、1999-2016年にマレーシア、シンガポールに滞在し、共同作業を行うことで築かれる強固なネットワークは、長くインパクトをもたらし続ける可能性が高いことを実感した。特に、2002-2005年に実施された東南アジアとのコラボレーションは東南アジアの演劇地図を大きく変え、そこで形成された人的ネットワーク「ローハン・ジャーニー」は、その後も長く影響を及ぼし続けている。

・今回の文化施設支援事業の一環で、インドネシアで行われたアートフェスティバルに参加し、新しい形のコラボレーションがどのように進んでいるかの見学を行い、劇場として重要な準備をしている。
・韓国との共同作業では、現地の劇場・劇団・制作者と共同して、相互交流することを目指している。若手クリエイターによる作品を紹介し、今夏(令和7年8月)2つのリーディング公演を行った。
・イギリスでも、共同作業による作品の上演を行うべく、ワークショップ等の実施を予定している。
◆東京芸術劇場 事例紹介
矢作勝義(東京芸術劇場 事業企画課長)

・開館から35年を経て、今までも様々な国際共同制作や国際的な事業を展開してきたが、文化施設支援事業の「TMTギア ―東京芸術劇場クリエイター支援プロジェクト」は、舞台芸術・音楽の未来を切り開くため、次世代のクリエイターとともに新しい作品を作り上げるプロジェクトである。当プロジェクトの特徴の一つは、パフォーマンス、音楽部門のアート・クリエイターだけではなく、伴走する映像メディアチーム4名、同劇場のプロデューサー、舞台技術スタッフの6名も育成する点にある。

・今回は特に、映像分野の活動を紹介する。本事業では、舞台芸術の価値を映像メディアによって高め、国内外の発信拠点となることを目指し、「プロモーション」「ドキュメンテーション」「アーカイブ」の三本柱で映像制作を体系化し、DXを活用した新しい舞台芸術の映像利用モデルを構築することを目標にしている。
・その一つとして、別事業で実施した海外公演に同行し、記録撮影を行い、その後に行う日本公演に向けたプロモーション映像の制作、日本公演における、8K定点映像収録に関する講習と実践的な実習を実施。
・育成アーティストによるワーク・イン・プログレスのドキュメンタリー映像の収録や、映像作品の制作サポート、プロモーション映像の制作等、実践的な取組が本格化している。
・映像制作を通し、多言語化への意識づけ、SNS等を活用したプロモーション拡充が図られ、海外展開へ貢献している傾向が見受けられる。
・今後の課題として、[映像アーカイブの位置づけ]や[ノウハウの蓄積方法]を更に検討することで、[舞台芸術の価値創造と人材育成へどのように活用できるか]という点が挙がっている。
◆山口情報芸術センター[YCAM] 事例紹介
竹下暁子(山口情報芸術センター[YCAM] パフォーミング・アーツプロデューサー)

・山口県山口市に位置する山口情報芸術センター[YCAM]は、開館以来約20年、多様なジャンルのパフォーマンスを制作し、36の国と地域でオリジナル作品を発表してきた。
・文化施設支援の事業では、子ども向け作品の制作・発表のほか、館内のクリエイター育成を行っており、その一つが、生成AIをテーマにし、小学4年生以上を対象とした参加型パフォーマンス「せいせいのせんせい」である。
・YCAMは「せいせいのせんせい」を、海外展開だけではなく、山口市内の小中学校での巡演を目指しており、特に、舞台作品をあまり見る機会のない子どもたちにとってのパフォーマンスへの入口として制作している。都心に比べて舞台鑑賞の機会も非常に少ない山口市においては、YCAMのような文化施設が子どもたちの元へ出向くアウトリーチ的な発想が必要であると考え、市内教育機関の協力も得て制作を進めている。

・海外展開を目指した制作にあたり、台湾と韓国では、リサーチ&ネットワーキングを行った。今回その事例を紹介する。
・台湾:産業のための技術を研究・開発する国の研究所・工業技術研究院 (ITRI)からの協力を得て、C-Lab(芸術・社会・技術を横断する文化実験と創造の拠点)や劇場などでプレゼンテーションや意見交換を実施。海外展開を見据え、同じくITRIの紹介で、台湾にある快樂國民小學や大勇國民小學を訪問するリサーチも実施。
・韓国:韓国の国立現代舞踊団(KNCDC)が主催するDance×Technology Open Weekに育成対象の捩子ぴじんさんと参加し、ダンスとテクノロジーについてのレクチャーや、ワークショップを行って、海外展開のためのネットワークづくりを行った。
◆エスプラネード・シアターズ・オン・ザ・ベイ
フェイス・タン(エスプラネード・シアターズ・オン・ザ・ベイ プログラミング・ディレクター(ダンス・演劇・ビジュアルアート・国際開発担当))

・エスプラネードは、2002年に開館し、東南アジア最大のプレゼンターとして機能している劇場である。常に観客に何をみせるかという客観的な視点と共に、文化芸術の振興や創客を意識したプログラム開発を行っている。
・上記のプログラム作りにあたっては、シンガポールが多様な人種を有していることも背景にあり、文化芸術をより広い社会的な視点で紹介できる体制をつくるため、歴史・政治を意識・配慮する必要がある。
・劇場では、年間30の事業を行っており、総じて、持続可能なエコシステムを通じた文化芸術振興、普及、創客を意識したプログラム構築に配慮し、積極的にレジデンシーや、ラボ、メンター制度を取り入れている。また、共同制作にも定期的に取り組んでいる。
・これらの視点をもったプログラムによって、劇場が、様々な方が平等な立場でいられる文化的な場として対話を生み、社会により開かれ、創造力による発展を図ることを促進している。

・アジアのアーティストとの共同制作や育成プロジェクトも実施しており、新しい世代との出会いにも魅力を感じているが、海外での公演に対しては、多様な観客へのナビゲーションのために、その国の文化、エコノミー状況を知ることのサポートも重要だと感じている。
・近年始まった特徴的なプログラムを2つ紹介(以下)。
① 現代舞台芸術レジデンシー:オリジナル作品をレジデンス制作するプログラムとして数年前に開始し、300の募集があった。単にアーティストが制作する資金等を提供するだけではなく、時間をかけた制作期間、他分野とのコラボレーション、研究機関や専門家からの批評的なフィードバックを設けることで、更に強度の強い作品制作を促している。劇場スタッフも、幅広い視野を得て知識を蓄積できる機会となった。
② インターナショナルプレゼンターズ・ヴィジットプログラム:知識の循環を目的に、アジアの現代アーティストやディレクターとネットワーキングを行うプログラム。学習の場を設けるほか、国際フェスティバルに本グループの参加者でツアーをし、様々な情報公開を行っている。少ない人数で知識をシェアするとコミュニケーションの密度が濃く、より効果的であり、アジアの現代パフォーマンスの現在地を再確認する好機となっている。
各劇場による特徴的な取組のプレゼンテーションを受け、後半はディスカッションが行われました。その模様は、後編でご紹介します。